12月になりました。
今年一年、あっという間だったと思われている方もいらっしゃると思います。
今回は、昔農家さんから学ぶ12月の農作業と、農事歴をご紹介いたします。
その昔、一年の畑仕事を終わらせる「こと納め」は、旧暦の師走12月8日、新しい年の畑仕事を始める「こと始め」は、旧暦の2月8日でした。
旧暦の師走は、為果月(しはつづき)と書くこともあり、農事がすべて終わる月でもありました。
なお、現在の新暦(太陽暦)では、こと納めが1月8日頃、こと始めが3月8日頃となり、旧暦とひと月ほどズレが生じてしまいます。
そこで今回は、冬至を畑の正月と考える「冬至正月」などについて、ご紹介いたします。
12月|昔農家さんから学ぶ農作業
12月の農作業
※地域によって前後します。
参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」
畑・納屋の大掃除
本格的な寒さが始まる12月は、これといった農作業はないように思われがちですが、昔農家さんは、畑や納屋の大掃除をしていたようです。
「暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二か月」の著者、久保田豊和さんがお持ちの農事歴に、次のような記述があるそうです。
農家はつねに忙しければ(せわしければ)、本月に垣を結い、あるいは農家の表裏まで掃除し、ゆたかに新年を迎えることがよい。ただし、塵芥(ちりあくた)の類を捨てずに、これを集めて堆肥(つみごえ)を作るように心がけたい
引用「暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二か月」162頁
あなたも畑の大掃除をして、有機物を集めてたい肥を作ったり、道具を洗って刃を研いだり油を注すなど、メンテナンスをしてみられてはいかがでしょうか。
堆肥づくりについて
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12月の農事歴
私たちは現在 新暦(太陽暦)にて暮らしておりますが、江戸時代以前の農家さんたちは、旧暦にて農作業を行っておりました。
現代においても旧暦の農事を参考にしますと、野菜づくりの良き指標となるかと思いますので、ご紹介いたします。
一陽来復(いちようらいふく)・冬至正月
現在、私たちは新暦(太陽暦)にて暮らしております。
12月は、旧暦の11月頃になりますので、農事を旧暦に合わせますと、1か月ほど差が生じてしまいます。
そこで、二十四節気のひとつ「冬至」を目安にしてみますと、太陽暦(新暦)のカレンダーでも、二十四節気は旧暦と変わりません。
冬至は一年でいちばん夜が長く、昼の短い日で、翌日から少しずつ昼の時間が長くなってゆきます。
つまり 一陽来復、冬至を畑の正月とする「冬至正月」としますと、私たちもスムーズに考えられるかと思います。
※ 一陽来復につきましては、後述いたします。
験を担いだ先人たち
「冬至(とうじ)」は「湯治(とうじ)」、「柚子」は「融通」など、先人は さまざまな行事で験を担いでいました。
冬至の夜は、柚子湯に入って一年の畑仕事の垢をおとし、運気がつくように「ん」のつくものを七種類食していたそうです。
1.なんきん(かぼちゃ)
2.だいこん
3.にんじん
4.れんこん
5.こんぶ
6.こんにゃく
7.こんぼ(ごぼう)
昔農家さんは、駄洒落を使って、一年の苦労を吹き飛ばしていたのですね。
12月の農事歴
1日 | |
2日 | 橘始めて黄なり |
3日 | |
4日 | |
5日 | |
6日 | |
7日 | 大雪(旧暦11月1日頃) |
8日 | |
9日 | 閉塞成冬 |
10日 | |
11日 | |
12日 | |
13日 | 熊穴に蟄る |
14日 | |
15日 | |
16日 | 鮭群がる |
17日 | |
18日 | |
19日 | |
20日 | |
21日 | 冬至 |
22日 | |
23日 | |
24日 | 乃東生ず |
25日 | |
26日 | |
27日 | 麋角の解つる |
28日 | |
29日 | |
30日 | |
31日 | 大晦日 |
参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」
橘始めて黄なり(たちばな はじめて きなり―新暦12月2~6日頃)
橘の実が黄色く色付く時期です。
ご近所のお庭の柑橘類が美味しそうに色付くのが、この頃です。
現在は、橘という酸味が強く食用に向かないミカン科の木がありますが、昔は蜜柑を総称して「橘」と呼んでいたようです。
古代の伝説上の人物である田道間守(たじまもり)が、常世の国(とこよのくに=古代日本で信仰された海の彼方にあるとされる不老不死の理想郷)から持ち帰ってきたといわれるのが「橘」で、その語源も、田道花(たじまはな)が変化したものとも言われているそうです。
大雪(たいせつ―新暦12月7日頃)
地域によっては、雪が降り積もるところもある時期で、いよいよ寒さが増してゆく頃です。
閉塞成冬(そらさむく ふゆとなる―新暦12月7日~11日頃)
「冬に成った」という意味で、重いグレーの雲が空を覆う時期です。
人は家の戸や窓を閉め、虫も土に入って万物が閉じ、冬を迎えます。
この時期、お世話になった人に贈る「お歳暮」は、本来は、年末にご先祖を祀るためのお供えを贈り合う習慣だったようです。
「お歳暮(おせいぼ)」は、もともと「年の暮れ」という意味の言葉で、この時期に一年の感謝の品を贈ることを、「歳暮の礼」「歳暮祝」といいました。
現在は、これが省略されて「お歳暮」と呼ばれるようになりました。
熊穴に蟄る(くま あなに こもる―新暦12月12~16日頃)
冬籠り
熊、蝙蝠(こうもり)、山鼠(やまね)、縞栗鼠(しまりす)などの恒温動物が冬眠、(冬ごもり)をする時期です。
昔は、人が外に出なくなることも含めて「冬籠り」といっていたようです。
煤払い(すすはらい)
江戸時代、12月13日は 家の内外の大掃除をする日だったと言われており、それが「煤払い」です。
この日は、「正月事始め」で、お正月の準備を始める日でもあり、先人は まず、家の”けがれ”を払う「煤払い」から始めました。
私たちも、当時の慣習にならって この時期からハタキなどを使って、まず「煤払い」から始めるのも良いかもしれませんね。
松迎え
12月13日の正月事始めの日に、先人たちは「松迎え」を行っておりました。
松迎えとは、山に入って門松、榊(さかき)、楪(ゆずりは)、裏白(うらじろ)などを伐ってきたのだそうです。
とくに裏白は、お正月飾りに欠かすことが出来ないもので、葉が向き合っていることから、夫婦和合の象徴、葉の裏が白いところは、共白髪、斜面を覆うほどの繁殖力から子孫繁栄など、縁起のよい植物を飾って、新しい年を迎える準備をしていました。
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南天(なんてん)
この時期の赤い実の代表「南天」は、「難を転じる」という語呂合わせから、縁起がよいものとされてきました。
また南天は、咳止めの薬効があり、葉は防虫、腐敗防止の作用がありますので、昔農家さんをはじめとする先人は、米びつや鎧びつに入れていたそうです。
鮭群がる(さけのうおむらがる―新暦12月17日~21日頃)
鮭が群れをなして、川を上る時期です。
鮭
鮭は川の上流で生まれ、雪解け水と一緒に川を下って沖に出て、一生の大半を海で過ごした数年後に、産卵のために大きな群れをなして、自分が生まれた川に戻ってきます。
鮭は季語にも使われる魚で、「秋味(あきあじ)」は、秋の味を代表するという意味、「時不知(ときしらず)」は、4月から7月頃に獲れる鮭のこと、生殖期のオス鮭は いかつい顔つきになっていることから「鼻曲がり」と呼ばれるのだそうです。
冬至(とうじ―新暦12月21~22日頃)
冬至、冬中、冬はじめ
太陽の高さが最も低く、昼の時間が一年で一番短くなる日です。
この日を境に、日が伸びてゆきますが、寒さは厳しさを増してゆく時期でもあります。
諺の、「冬至、冬中(ふゆなか)、冬はじめ」は、暦の上では冬の真ん中ではあるものの、本格的な寒さはこれからですという意味です。
昔農家さんは、ひびやあかぎれに効果のある柚子湯に入り、貯蔵のきくカボチャを食して、野菜の乏しくなるこの時期を乗り越えました。
一陽来復(いちようらいふく)
陰陽説では、冬至の直前で陰が極まり、冬至から陽がひとつ戻ってくると考えられていました。
つまり、「悪いことが続いたあと、ようやく幸運に向かうこと」という例えとして、「冬至」を正月と考えていた先人もいたようです。
乃東生ず(なつかれくさしょうず―新暦12月22~26日頃)
「乃東生ず」は、うつぼ草が生える頃という意味で、夏至のはじめに枯れたうつぼ草や菊の親株などが、この時期に芽を出しはじめます。
これは何を意味しているかといいますと、「冬至芽(とうじめ)」、すなわち厳寒で芽を出す草は長寿の象徴で、「良い芽が出る」すなわち、希望の芽と考えられていたようです。
麋角の解つる(さわしかのつの おつる―新暦12月27~31日頃)
カモシカ
大鹿の角が落ちる時期です。
麋角の解つるの「麋」は、大鹿(=ヘラジカ)のことのようです。
蕎麦
昔は、とがったところや、ものの角のことを、「稜(そば)」と言いました。
蕎麦の語源も、実が三角に尖っているからだと言われています。
江戸時代より前の蕎麦は、米に混ぜたり、粉にしてお湯で練って食べられていました。
現在のように細い麺にして食べるかたちが広まったのは、江戸時代になってからなのだそうです。
年越し蕎麦の由来は、さまざまな説がありますが、「細く長く」にあやかるのがよく知られていますね。
また、食すると運が向くとも考えられており、「運気蕎麦」とも呼ばれていたようです。
除夜の鐘
大晦日の夜から、新年にまたがって撞く除夜の鐘は、百八つあるといわれる人の煩悩を消すといわれています。
厳かな鐘の音で、先人は新しい年への思いを馳せていたのでしょう。
まとめ
12月の農作業と農事歴について、ご案内いたしました。
昔農家さんは季節と共存しながら農作業を行っていました。
厳寒の中、辛いことがあっても、ひたすら前向きに自然と向き合い、新しい年は必ず明るくなることを信じていたのでしょう。
現代を生きる私たちも、自然の声に耳を傾け、肌で感じながら、気持ちよく畑仕事を行ってゆきたいですね。
来年もよいお年になることを、お祈り申し上げます。
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[参考文献]
[12月のお菓子]