2月は 旧暦の1月で、新しい年が始まる月、「お正月」でした。
江戸時代の農家さんにとっての本月は、もっとも華やぐ時期であったことと思います。
そして、昔農家さんは 私たちよりも、はるかに季節の移り変わりに敏感でした。
先人の知恵は、現代を生きる私たちの野菜づくりのヒントになるものが数多くありますので、ご紹介いたします。
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昔農家さんから学ぶ2月の農作業について
一年の栽培スケジュールを立てましょう
旧暦2月8日(現在の3月10日前後)は、「事始め」と呼ばれ、一年の農事や祭事を始める日です。
私たちも 昔農家さんにならって、畑仕事が少ないこの時期に、今年の栽培計画を立てておくと良いですね。
なお、一年の農作業や行事を終わらせることを「事納め」といい、旧暦の12月8日(現在の1月10日前後)がその日になります。
― 事八日(ことようか)―
旧暦の上での、12月8日と2月8日を、「事八日」といいます。
「事」とは、仕事のことで、昔はほとんどが農作業のことを示しており、2月8日を事始め、12月8日を事納めとしてたようです。
なお、関東の一部では「事」を正月行事と解釈して、12月8日を事始め、2月8日を事納めとしているところもあるようです。
また、2月8日と12月8日を「対」として考える地域もあれば、どちらかを事始め・事納めと呼ぶこともあり、更には、2月8日か12月8日の片方のみ行う地域もあるそうです。
梅の開花
2月は旧暦の1月で、睦月(むつき)と呼ぶほかに、「早緑月(さみどりづき)」ともいい、木や草がわずかに緑を帯びてくる時期になることをが分かります。
あなたがお住いの地域では、梅の花が咲き始めましたでしょうか。
梅の花が咲いたら、植物の発芽スイッチが入り、小さな春が動き始めます。
梅の花が上を向いていたらその年は空天気(からてんき=雨が少ない)、
横を向いていたら雨は平年並み、
下を向いていたらその年は雨や台風が多い
引用 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」
昔農家さんは、梅の花が咲き始めるこの時期に、畑の準備を始めると同時に、梅を見て、その年の気候を予測していたようです。
ウグイスの初鳴き
梅の開花のほかに、昔農家さんはウグイスのさえずりをきいて、新年の農事に取り掛かかったとも言われています。
ウグイスは、「春告げ鳥」とも言われていますので、ホーホケキョ♪というさえずりが、農作業を始める合図になっていたのでしょうね。
春の七草
私たちは春の七草を、新暦1月にいただきますが、昔農家さんは旧暦1月(新暦の2月)に食していました。
つまり、春の七草は、本来 この時期に芽吹き始めることを意味しています。
寒おこし
2月は、「寒おこし」を行うのに適しています。
土を寒気にさらしてふかふかにし、害虫の卵やサナギ、病原菌を殺します。
[関連記事]さらば雑草と害虫!「寒おこし」する理由とやり方は?「天地がえし」の違いについて
2月の農作業(例)
※地域によって前後します。(参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」)
2月の農事歴
私たちは現在 新暦(太陽暦)にて暮らしておりますが、江戸時代以前の農家さんたちは、旧暦にて農作業を行っておりました。
現代においても旧暦の農事を参考にしますと、野菜づくりの良き指標となるかと思いますので、参考になさってください。
2月の農事歴[旧暦1月(睦月)]
1日 | |
2日 | |
3日 | 節分 |
4日 | 立春(旧暦1月1日頃) |
5日 | |
6日 | 東風氷を解く |
7日 | |
8日 | |
9日 | ウグイス鳴く |
10日 | |
11日 | |
12日 | |
13日 | |
14日 | 魚氷をいずる |
15日 | |
16日 | |
17日 | |
18日 | |
19日 | 雨水 |
20日 | |
21日 | 土脈潤い起こる |
22日 | |
23日 | |
24日 | |
25日 | 霞始めてたなびく |
26日 | |
27日 | |
28日 | |
29日 | |
30日 | |
31日 |
参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」
節分(せつぶん―新暦2月3日頃)
雑節のひとつ「節分」は、四季の分かれ目です。
節分は、一年に4つあり、立春・立夏・立秋・立冬の前日になります。
立春(りっしゅん―新暦2月4日頃)
旧暦では、この日が一年のはじまり、つまり1月1日で、この日から立夏の前日までが「春」になります。
東風氷を解く(はるかぜ こおりを とく―新暦2月4日~8日頃)
東から吹く春の風が、氷を解かし始める時期です。
立春は旧暦の元旦
旧暦の時代、立春にもっとも近い新月の日を元旦としていました。
つまり昔農家さんは、新しい年を迎えることと 春を迎えることは、同じと考えていたようです。
私たちが、お正月に「迎春」という言葉を使うのは、その名残りですね。
迎春花(げいしゅんか)
この時期に咲き始める花が、黄梅(おうばい・こうばい)です。
実は、この花は梅ではなく モクセイ科の植物で、見た目が梅に似ていることから、その名が付いたと言われています。
黄梅は、新春を迎えるおめでたい花ということで、「迎春花」とも呼ばれ、先人たちはほころび始めた黄梅を見て、春の気配を感じとっていたのかもしれません。
ウグイス鳴く(―新暦2月9日~13日頃)
ウグイスが鳴き始める頃です。
初音(はつね)
春になり初めて聞くウグイスのさえずりを、「初音」といいます。
昔農家さんは、春を告げる初音を、心待ちにしていたことでしょう。
ところでウグイスは、一年中 日本にいる鳥であることをご存知でしょうか。
寒い時期は、「チャッチャッ」と鳴き、春になると「ホーホケキョ」とさえずります。
春疾風(はるはやて)
2月に畑で作業をしていますと、激しい風に吹かれたことはないでしょうか。
疾風(はやて)は、急に激しく吹き起こる風で、春荒(はるあれ)、春嵐(はるあらし)と呼ぶこともあります。
そして、春疾風の中で 立春から春分までの間に吹く最初の南風が、「春一番」です。
春一番が吹きますと、気温がグっと上がりますが、すぐに冷たい風が吹いて寒くなり、春二番、春三番と同じような風が吹くたびにあたたかい春へと導かれてゆきます。
ホウレンソウ
霜にあたるほど甘みが増して美味しくなるホウレンソウは、「菠薐草」とも書きます。
ホウレンソウの原産地は西アジアや西南アジア、中央アジアで、「菠薐」はネパールの地名なのだそうです。
今でこそ、馴染み深いホウレンソウですが、東洋種が中国から日本に渡来したのは江戸時代初期で、当時は江戸の人の口に合わず、普及されることはなかったようです。
それが 大正末期から昭和初期にかけて東洋種と西洋種の交配品種が日本各地に普及し、今に至ったのだそうです。
魚氷をいずる(うお こおりを いずる―新暦2月14日~18日頃)
浮氷(うきごおり)
氷の下に隠れていた魚も春の兆しを感じ、出てくる時期です。
寒い間、水の底でじっとしたいた魚たちも、水がぬるみますと、元気に泳ぎ始めるのですね。
なお、北海道の「流氷」の便りが届くのもこの頃です。
公魚(わかさぎ)
厚い氷が張った湖に穴を空けて釣るワカサギは、今では誰もが釣って味わえる魚ですが、江戸時代、霞ヶ浦産のものは 将軍に献上される魚でした。
わかさぎに「公魚」という公(おおやけ)という字が使われているのは、公方様(くぼうさま=将軍)、ご公儀(ごこうぎ=幕府)に献上される魚であったためなのだそうです。
春菊(しゅんぎく)
地域によって前後しますが、そろそろ春野菜の種まきを始められる頃になりますので、春菊などの種をまいて、育ててゆきましょう。
春菊は鍋ものに欠かせない野菜ですが、食用にしている国は珍しく、外国では鑑賞を楽しむ植物とされているようです。
雨水(うすい―新暦2月19日頃)
空から降る雪も雨に変わる頃です。
大地が目覚め潤い始めますと、水蒸気が立ち上って霞がたなびき始め、草木が芽吹いてきます。
積もった雪も解けて流れ、いよいよ農作業を始める時がやってきました。
土脈潤い起こる(どみゃく うるおい おこる―新暦2月19日~23日頃)
春雨(はるさめ)
この頃に降る雨を「春雨」といい、土が湿り気を含み出す時期です。
「土脈潤い起こる」の潤いとは、雨が降って湿気が上がることで、凍っていた土が陽気で湿り気を帯びます。
雪間草(ゆきまぐさ)
雪間草は、特定の草をさすものではなく、積もった雪が消えかかり、地肌が見えている「雪間」から顔を出している草のことをいいます。
まだまだ気温は低いものの、先月には見られなかった光景が見られるのも、この時期ならではですね。
猫柳(ねこやなぎ)
猫のしっぽを連想させる「猫柳」は、江戸時代までは河原に多く生えていたため「川柳(かわやなぎ)」と呼ばれていたそうです。
この時期に、茶色い殻から顔を出す、かわいらしい花穂は、私たちの心をほっこりさせてくれますね。
霞始めてたなびく(かすみ はじめて たなびく―新暦2月24日~28日頃)
春めいて、空に霞がたなびく時期です。
霞(かすみ)
冷たい空気が緩み始めるこの時期に、空に霞がたなびき始めます。
霞は、朝霞、夕霞、薄霞、八重霞、遠霞など、その時間や状態によって、美しい言葉で表わされてきました。
春月夜(はるづきよ)
霞は、夜になりますと、「朧(おぼろ)」といいます。
朧(おぼろ)と呼ばずとも、春月夜、春三日月など、春を付けると とても風流ですね。
楽天(らくてん)
楽天は、ひばり(=雲雀)の異名であると言われています。
天を楽しむ鳥。
なんとも元気になりそうな名前ですね。
また、ひばりの語源は、晴れた日に天高く舞い上がってさえずるので、「日晴(ひばる)」。
これが「ひばり」に変化したという説があるそうです。
水菜(みずな)
水菜は冬野菜のイメージがありますが、歳時記では春が季語の野菜なのだそうです。
京都周辺で古くから栽培されていたこともあり、「京菜」とも呼ばれる水菜は、昔は鯨の鍋物(はりはり鍋)に欠かすことが出来ない野菜でもありました。
まとめ
2月の農作業と農事歴について、ご案内いたしました。
昔農家さんは自然と共存しながら農作業を行い、私たち現代人よりも、はるかに季節の移り変わりに敏感でした。
先人の知恵は、今を生きる私たちの野菜づくりのヒントになるものが数多くありますので、参考にしていただければ幸いです。
[参考文献]