3月になり、野菜づくりをいよいよ本格的に始める季節になりました。
今回は、昔農家さんから学ぶ、3月の農作業について、ご案内いたします。
昔農家さんは、私たちよりも はるかに季節の移り変わりに敏感で、植物や動物の動向などを観察しながら、畑仕事を行っていました。
先人の知恵は、現代を生きる私たちの野菜づくりのヒントになるものが数多くありますので、参考になさってください。
※ 掲載の画像はすべてイメージです
昔農家さんから学ぶ3月の農作業について
こぶしの花が咲いたら種まきスタート
日本列島は南北に長く、3月と言えども、まだまだ寒い地域もありますので、3月〇日と日にちを決めて 野菜の種をまくことは出来ません。
カレンダーなど無かった時代、昔の農家さんは、こぶしの鮮やかな白い花が咲いたら種をまく目安にしていたと言われています。
こぶしは、昔から農事の目安にされていた花で、「種まき桜」「田打ち桜」とも呼ばれています。
畑の耕うん・ウネ立て
3月は、こぶしの花をはじめ、連翹(れんぎょう)の鮮やかな黄色い花が咲き始めます。
これらの花が咲き始めましたら、畑を耕し、ウネを立て、春まきの葉物野菜や根菜類の種をまきましょう。
桃の花が開き、にわとこの芽が立つ頃、里芋を植える
桃の花が咲いて、にわとこの芽が出る頃に、里芋を植えましょうと唱えている書物があります。
桃の花は、温暖な地域や暖かい年の場合、花が葉より先に開きますが、冷涼な地域や年には、葉のほうが先に開きます。
ちなみに「にわとこ」は、接骨木と書き、枝や幹を煎じて水あめ状にしたものを骨折の際の湿布剤に使われていたという木です。
彼岸桜の開花を見て、茄子の種をまく。 彼岸桜が散る頃、瓜、胡瓜、西瓜、胡南瓜の種をまく。
ここで言う桜は、「彼岸桜」を指しています。
私たちが連想する桜はソメイヨシノですが、これは明治時代になってから普及されたものです。
彼岸桜は、ソメイヨシノの開花日とほぼ同じようですので、あなたがお住いの地域の桜の開花を目安にされるとよいかと思います。
桜が咲く頃、茄子の種まきのほかに、トマトやピーマンなど、ナス科野菜の種をまくことも出来ます。
なお、キュウリ、スイカなどのウリ科野菜は、ナス科に比べて育苗期間が短いため、桜の散る頃、種まきの時期を少し遅くして加減をしているあたりは、昔農家さんがいかに野菜を熟知しているかがうかがえますね。
春のお彼岸「寒さ暑さも彼岸まで」
本格的な農作業が始まる頃です。
3月20日は、昼と夜の長さが同じになるお彼岸(春分の日)で、昔農家さんは農繫期の一休みとして、この日にボタ餅を食べて一息つけていました。
春のお彼岸以降は、昼の時間が少しずつ長くなりますので、いよいよ畑仕事にせいを出してまいりましょう。
遅霜に注意です
3月は、まだ霜が降りる季節でもありますので、種をまいて芽を出した野菜が凍って溶けてしまう場合があります。
そこで、ビニールトンネルをかけるなど防寒対策を行い、霜を防ぎ 地温を上げる工夫をしましょう。
3月の農作業(例)
※地域によって前後します。(参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」)
3月の農事歴
私たちは現在 新暦(太陽暦)にて暮らしておりますが、江戸時代以前の農家さんたちは、旧暦にて農作業を行っておりました。
現代においても旧暦の農事を参考にしますと、野菜づくりの良き指標となるかと思いますので、参考になさってください。
3月の農事歴[旧暦2月(如月)]
1日 | |
2日 | |
3日 | |
4日 | |
5日 | 啓蟄(旧暦2月1日頃) |
6日 | |
7日 | |
8日 | 巣籠り虫戸をひらく |
9日 | |
10日 | |
11日 | 桃始めて咲く |
12日 | |
13日 | |
14日 | |
15日 | |
16日 | 菜虫蝶となる |
17日 | 彼岸入 |
18日 | |
19日 | |
20日 | 春分 |
21日 | |
22日 | 雀始めて巣くう |
23日 | |
24日 | |
25日 | |
26日 | 桜始めて開く |
27日 | |
28日 | |
29日 | |
30日 | |
31日 | 雷すなわち声を発す |
参考文献 久保田豊和著「新版 暦に学ぶ野菜づくりの知恵 畑仕事の十二ヵ月」
啓蟄(けいちつ―新暦3月5日~3月10日頃)
昔は、昆虫だけでなく、蛇やカエル、トカゲなども「虫」といっていました。
啓蟄の「蟄」は、巣籠りのことで、土の中に眠っていた虫たちが春雷の音と響きに驚いて、外にはい出てくることをいいます。
巣籠り虫戸をひらく(すごもりむし とを ひらく―新暦3月8日頃)
冬のあいだ、地中に隠れていた虫が戸を開いて外に出始める頃です。
桃始めて咲く(新暦3月11日~3月15日頃)
モモの花が咲き始める時期です。
桃花水(とうかすい)
この時期に、雪や氷がとけて、大量に流れだす川の水を「桃花水」といいます。
蕨(わらび)
薇(ぜんまい)、楤の芽(たらのめ)、独活(うど)、蕨(わらび)などの山菜が顔を出し始める時期です。
なかでもワラビは古くから食用されてきたようで、万葉集にも「早蕨(さわらび)」が登場しているそうです。
根から採るでんぷんから作るわらび餅は、今でも人気がありますね。
菜虫蝶となる(なむし ちょうとなる―新暦3月16日頃)
菜の花に付く青虫が蝶になって飛び回る頃です。
菜虫(なむし)
菜虫は、ダイコン、キャベツ、ブロッコリーなど アブラナ科の野菜を食べる虫のことで、モンシロチョウの幼虫(アオムシ)です。
ほかにも、片喰(カタバミ)を好む菜虫は、「大和小灰蝶(ヤマトシジミ)」、ミカン科の植物を好む揚羽蝶(アゲハチョウ)は、「柚子坊(ユズボウ)」と、異名が付いています。
彼岸入(ひがんいり―新暦3月17日頃)
春分の日を挟んで前後七日間が「彼岸」、真ん中が「彼岸の中日」です。
春分(しゅんぶん―新暦3月20日頃)
昼と夜の長さがほぼ同じ日となる日で、ようやく気温が安定する頃です。
春分、秋分の両日は、極楽浄土に最も近づける日と考えられ、「彼岸」と呼ばれてきました。
この春分から夏至の前日までが、「春」となります。
また、彼岸の初日は、「彼岸太郎」と呼ばれ、晴天になるとその年は豊作になるのだそうです。
雀始めて巣くう(すずめはじめてすくう―新暦3月22日頃)
春の気が高まり、スズメがつがいとなって巣を作り始める頃です。
三つ葉
芹の仲間の三つ葉は、「三つ葉芹」とも呼ばれています。
今では工夫をして栽培しますと、一年中 収穫することが出来ますが、本来は春が旬の野菜です。
桜始めて開く(新暦3月26日頃)
桜のつぼみがふくらんで、やっと咲き始める頃です。
昔農家さんはこの時期を、里芋を植える目安としていました。
雷すなわち声を発す(新暦3月31日頃)
立春後、初めて鳴る雷を、「初雷(はつかみなり)」といいます。
春雷の特徴は、ひとつふたつで鳴りやむことが多いようです。
その分、大きな音に感じられ、印象に残るでしょう。
蓬(よもぎ)
草餅にする蓬(よもぎ)は、「餅草」とも呼ばれています。
蓬は、その旺盛な繁殖力から、邪気を払う力があると信じられていたようです。
また、冷えや、疲労回復に効果があると言われていますので、昔農家さんは湯舟に入て、「蓬風呂」にしていました。
蓬風呂は、現代にも受け継がれていますね。
まとめ
3月の農作業と農事歴について、ご案内いたしました。
昔農家さんは自然と共存しながら農作業を行い、私たち現代人よりも、はるかに季節の移り変わりに敏感でした。
先人の知恵は、今を生きる私たちの野菜づくりのヒントになるものが数多くありますので、参考にしていただければ幸いです。
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[参考文献]
・ やさい畑 冬号 2018年 12月号(26頁)「東郡田畠耕方井草木目当書上」