今回は、アイビーファッションの基本、コットンスーツについてウンチクを傾けたいと思う。
春は、ベージュのコットンスーツを着てほしい。
現代は、カラス族(=黒いスーツ)と言うのかもしれないが、冬の間の ドブネズミ族(=グレーのスーツ)から、ハジけてほしいのだ。
1960年代、冬のスーツはウールのみで、春になると、分厚いフランネルからウーステッドに変えるのが、ドブネズミ族の基本であったのだ。
春、四月は、コットンの季節である。
これから 私が紹介するコットンスーツの着こなしは、1960年代のアイビーファッションを基としており、当時と同じスタイルにすることは物理的に不可能で、仮に、当時と同じものを着用したら、古臭いものになるだろう。
しかし、これから私がご紹介するコットンスーツの色、かたち、アクセサリーを、現在のショップで探してそろえていたければ、きっとクールな装いになることを約束しよう。
※ 本ページは個人の見解によるものです
現代スーツの謎
春のスーツは、「コットンスーツ」しかないと私は思う。
不思議で仕方がないのだが、今の若者は、なぜコットンスーツに袖を通さないのだろう。
今からスーツを手に入れようと思っている君へ。
ポリエステル素材のスーツなど、決して選ばないでほしい。
男だって華やかになっていいのだ。
バチは当らない。
しかしながら、コットンスーツは、いささか着こなしが難しく、ひとつ間違えると 恰好が悪くなってしまう。
そうならないための、コットンスーツの選び方、着こなし方を、ご紹介したいと思う。
コットンスーツのジャケットは「段返り」を選ぶべし
コットンスーツの必須条件は、以下のとおりである。
・ナチュラルショルダー
・段返り(だんがえり)
・センターフックベント
・パッチアンドフラップポケット
色はベージュ
春になったのだから、明るい色のスーツを選んでみてはいかがだろうか。
理由は、それだけである。
春、淡い色の花が咲き始めるように、男の服も花を咲かせてほしい。
要するにファッションとは、自然に合わせるものなのだ。
ナチュラルショルダー
ナチュラルショルダーとは、過剰な肩パットが入っていないものを言う。
男の肩は、すべてを物語る。
過度な装飾をせず、ジャケットを着る人物の人間性を表現するために作られているものが、ナチュラルショルダーである。
段返り(だんがえり)
下襟の後ろに隠すように、ボタンを付けている仕立てを「段返り」と言う。
このボタンは、飾りで付けられているため、留めることはない。
これが、1960年代のセオリーなのだ。
センターフックベント
コットンジャケットに限らず全てのスーツにはおいて、センターフックベントは必須だと思っているのだが、歴史が変わりつつあり、あまり見かけなくなったのが実情だ。
わたしのジャケット(ブルックスブラザーズ)も、センターフックベントではなく、45度のステッチになっている。
君がもしセンターフックベントのジャケットを見つけたら、迷わずそれを選んでほしい。
パッチアンドフラップポケット
カジュアルなジャケットに付いているポケットを「パッチアンドフラップポケット」といい、またの名を「エンベロープポケット」と呼ぶ。
エンベロープは封筒の意味で、元はポケットの中身を落とさないように作られたものだが、コットンジャケットはこのタイプを選んでほしい。
以上の条件を満たしているスーツを1着手に入れることができれば、君は恥ずかしくない人生を送ることができるだろうと、私は思う。
コットンスーツのスラックスはノータックに限る
アイビーファッションのコットンスラックスのシルエットは、パイプドステム(寸胴)、裾はダブルの折り返し4センチのみである。
プレーンフロント(ノータック)
アイビースタイルが流行っていた1960年代は、プレーンフロント(ノータック)のスラックスばかりであった。
洋服の流行り(トレンド)は、スラックスのタックを見ればわかると言われているが、プレーンフロントは、時代遅れにならない「かたち」であるので、ぜひとも選んでほしい。
縦(たて)ポケット
縦ポケットは、横から見たときに非常に恰好が良く、アイビーファッションにおけるマスト条件である。
コットンスーツに限らず「縦ポケット」のスラックスは、スマートに見えるので、別のスーツのスラックスを選ぶ際も、縦ポケットを選ぶことをおすすめしたい。
バックストラップ(尾錠(びじょう))付き
アイビーには必須のバックストラップ(尾錠付き)パンツ。
もし尾錠付きのスラックスに出合えたならば、君は相当ラッキーである。
スソは4センチのダブル
スラックスの裾(すそ)は、ダブルに限る。
また裾の長さは目安として、靴の底から4cm程度。
この長さがちょうど良いバランスになる。
コットンスーツに合うシャツは決まっている
オックスフォード織り
コットンスーツに合うシャツは、「オックスフォード織りのボタンダウン」で、色は白、ブルー、ライム、メイズ、ピンクの5色である。
もしくは細いブルーのストライプ、タッターソールでも良いだろう。
ボタンダウン白
ボタンダウンブルー
ストライプ
タッターソール
参考表
生地 | オックスフォード (シャンブレー、バチステのような薄い生地) |
かたち | ボタンダウン |
色 | 白、ブルー、ライム、メイズ、ピンク |
柄 | ストライプ、タッターソール |
トラッドスタイルに存在しない「黒ボタン」
ここで、シャツのボタンについて言及しておきたい。
昨今、黒いボタンのシャツや、ボタンホールのステッチが黒いもの、ダブルボタンシャツを見かける。
これらは、トラッドスタイルにおいて、決してあり得ないことである。
そもそもボタンというものは、基本的にいかに小さく、薄く、目立たないものでないとならないもので、昔のボタン職人は、貝殻を用いていかに目立たないように努力しながら作ってきた。
それを踏みにじってはならないと、私は思う。
それでは、なぜボタンを 目立たないようにしなければならなかったのか。
答えは簡単で、ボタンは女性のパンティラインと同じで、要するに、人の目につくと恥ずかしいものだったのだ。
そもそもシャツのボタンとは、留める用途だけのものあり、一人歩きをしてはいけない存在、つまり影武者と同じなのだ。
タキシード用のシャツは例外
ただし、タキシードを着用する際のシャツのボタンは別の話になる。
タキシードは 胸が開けた作りになっているため、飾りとしてあえて黒いボタンを使う場合がある。
映画「アンタッチャブル」のアル・カポネのタキシードのシャツは黒ボタンで留めているので、観てみてほしい。
コットンスーツに合うネクタイ
ニットタイ
コットンスーツに合うネクタイは「綿のニットタイ」もしくは「粗い織りのリネンタイ」である。
綿のニットタイの基本色はベージュベースに、ネイビーブルーのストライプなど、涼しい色を選んでほしい。
麻のタイは、ベージュオンブルーがおすすめである。
シルクも悪くない
昨今、ニットタイを見つけるのが難しい時代になってしまったので、シルクのネクタイでも悪くないだろう。
柄は、上の写真の小紋(こもん)、ストライプがおすすめである。
レジメンタルタイについて
ストライプのネクタイをレジメンタル(レジメン)と呼ぶ輩がいるが、私は「レジメンタル」と呼ばない。
なぜならレジメンタルは、軍隊の正式な紋章であるからだ。
本来 我々は、軽々しく色の組み合わせをしてはいけないのだ。
コットンスーツに合う靴
サドルオックスフォードシューズ
靴は、サドルシューズを選んでほしい。
色は、ホワイトオンブラウン。
これさえあれば、春のコットンスーツや麻のスーツに必ず合うだろう。
ブラウンのウィングチップ
サドルオックスフォードのほかに、ブラウンのウイングチップなども恰好が良い。
決して「先のとんがった」「黒い靴」などを購入しないでほしい。
コットンスーツに合わせる靴下は綿で
基本、スーツに合わせるソックスの色は、ズボンの色もしくは靴と同じ色を選んでほしい。
したがって、コットンスーツに合う靴下の色は、ベージュもしくは白になる。しかし今のご時世、ベージュ色の靴下を見つけるのは難しいかもしれない。
その場合、「綿の黒」か「綿の白」の靴下がおすすめだ。
それでは、柄の靴下は履いてはいけないのか?
いや、そんなことはない。
「アーガイルの綿の靴下」は、アイビーの世界では認められるが、それ以外はタブーである。
コットンスーツのベルトは革
コットンスーツは、靴と同色のプレーンなベルトを選んでほしい。
したがって、色は「茶色」のみで、黒はNGである。
なぜ、黒はいけないのか。
理由は、全身を薄い色で装うわけだから、インパクトのある黒は決して合わないのである。
コットンスーツに黒は合わないと、疑問に思わない価値観を、ぜひとも変えてほしい。
スーツのボタンについて
毎日袖を通すスーツであるがゆえ、君たちには服の歴史を知っていただきたい。
君は、スーツはもともと軍服であったことをご存知だろうか。
軍服のボタンを想像してほしい。
ボタンが首から下へ、たくさん付いているだろう。
学ランについては諸説あるが、その名残であろう私は思う。
しかし現代のスーツのボタンの数は、2つから4つ。
それは「平和のあらわれ」と、私は考える。
今、君が持っている(もしくは、手に入れようとしている)スーツには「ボタンホール」があるのが分かるだろう。
それこそ軍服の名残であるのだ。
一方で、お祝いに着用するタキシードのボタンは、1つ。
平和の象徴だ。
コットンスーツの着こなしの基本
尻を隠せ
日本のビジネススーツの色は、暗めの風潮にある。
それは、仕方がないかもしれない。
しかし現在、巷に出回っているスリムなシルエットは、アイビーの世界ではありえない。
もちろん、アイビーリーグ時代のスーツを着ろとは、わたしは言わないが、、、
ジャケットを着るならば、尻を隠せ。
ジャケットの裾の長さは、手の中指の、第一関節を基本に選んでほしい。
長すぎてもいけない。
そうすれば、尻は隠れる。
昨日 私が見たビジネスマンは、ジャケットの裾(すそ)が短かすぎて、ケツ丸出しで走っていた。
わたしは、泣きたくなったぞ。
また、ジャケットの袖丈(そでたけ)は、シャツが5ミリ~1センチ出る長さにすること。
これは、アイビーにおいては必須条件である。
・袖から出るシャツは5ミリ~1センチ。
ボタンのかけ方の鉄則1
段がえりジャケットのボタン(3つボタン=ミツボタンと呼ぶ)のかけ方は、
・立っている時は、ジャケットの3つあるボタンのうち、真ん中だけかける。
・座っている時は、ボタンをすべて外す。
これで、相手の人柄が判ると言っても過言ではないと思う。
そういえば、最近ようやく現内閣総理大臣(2020年時点)がこれをやりはじめた。
ようやくだ。
前アメリカ合衆国大統領・オバマ氏との会談で、現在の内閣総理大臣が座っていたとき、ボタンを付けたままにしていたのを見た私は、日本の恥さらしだとひとり思っていたものだ。
ボタンのかけ方の鉄則2
街で、ときどきボタンのかけ方が間違っているいい大人を見つけてしまうと、泣きたくなってくる。
絶対にやってはいけないこと。
それは「一番下のボタンをかける」こと。
なぜ一番下のボタンをかけてはいけないのか。それは大変「理にかなっている」理由である。
先ほどスーツは軍服だったと述べた。
軍人は、馬にまたがって戦地におもむく際、ボタンを一番下までかけてしまうと、馬にまたがれない。動きも悪くなる。
したがって、一番下のボタンはかけなかったのだ。
スーツの一番下のボタンをかけない理由は諸説あるが、結局は、合理的な話なのである。
まとめ:春はコットンスーツを着よう
今日は、1960年代のアイビーファッションを基としてウンチクを傾けた。
当時とおなじデザインのコットンスーツを着てほしいとは言わない。
それを着た場合、きっと奇異に映るからだ。
しかし、今回述べたコットンスーツの「色」「かたち」「アクセサリー」を、現在の店で揃えることが出来れば、間違いなく格好良くなるだろう。
春の街を闊歩(かっぽ)する若者たちが、葬式ファッションから明るいコットンスーツを着る時代がおとずれてほしいと、わたしは切に願っている。
※ 本ページは個人の見解によるものです
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