おとり作物と言われている「バンカープランツ」の種類と、栽培例をご紹介いたします。
野菜のちかくにバンカープランツを育てますと、野菜がかかりやすい病気や害虫被害の身代わりになってくれます。
この栽培は、農学博士の木嶋利男先生が紹介されている方法で、バンカープランツの種類と期待できる効果、野菜とバンカープランツの栽培例をご案内いたしますので、参考になさってください。
バンカープランツとは?
菜園の中を性質の異なる虫が群がる環境をつくるために、「バンカープランツ」を植える方法があります。
バンカープランツと言われている植物は よく育つものが多く、これらに害虫に寄り付いたとき、それをエサとする天敵(クモ、カマキリ、テントウムシなど)が増えやすくなりますので、野菜の害虫被害を減らす効果があると言われています。
バンカープランツの種類と期待される効果
バンカープランツ一覧
農学博士の木嶋利男先生が紹介されているバンカープランツをご紹介します。
バンカープランツの性質を活かして野菜のそばに植えますと、野菜に寄り付く害虫、かかりやすい病気の身代わりになってくれる効果があると言われています。
バンカープランツの種類と期待される効果
バンカープランツ 期待される効果 赤クローバー うどんこ病菌の寄生菌を増やす オオバコ ムラサキカタバミ ハダニの天敵を増やす カタバミ カラスノエンドウ アブラムシ、ハダニの天敵を増やす ナスタチウム(キンレイカ) アブラムシ、ハダニ、スリップスの天敵を増やす ヨモギ ギシギシ テントウムシダマシの天敵を増やす キスゲ カイガラムシの天敵を増やす クリムソンクローバー スリップス、アブラムシの天敵を増やす シロツメクサ ヨトウムシの天敵を増やす ムギ類 多くの天敵を増やす。うどんこ病菌の寄生菌を増やす。 コスモス 多くの天敵を増やす。訪花昆虫を呼ぶ マリーゴールド ヒマワリ ラベンダー ローズマリー クロタラリア 多くの天敵を増やす トウモロコシ デントコーン ソルゴー エンバク 木嶋利男著「コンパニオンプランツの野菜作り」から引用
有翅アブラムシを無毒化にするバンカープランツ
気温が上昇してくる春先になりますと、翅(つばさ)を持ったアブラムシが風に乗って野菜に着地・吸汁して増殖を始めます。
ウイルスに感染しているアブラムシが野菜を吸汁しますと、アブラムシの体内にあるウイルスが野菜に感染してしまい、モザイク病が出る可能性があります。
しかしながら、アブラムシが野菜に付く前にバンカープランツに吸汁しますと、ウイルスはバンカープランツに移りますので、アブラムシは「無毒化」になります。
無毒化したアブラムシが野菜に移動して吸汁しても、野菜のウイルス感染はまぬかれます。
バンカープランツの紹介
赤クローバー(マメ科)
(別称:アカツメクサ・ムラサキツメクサ)
赤クローバーはマメ科の植物で、土を肥沃にする手助けをしてくれます。
また自身がうどんこ病にかかり、うどんこ病の寄生菌を増やす働きありますので、野菜がうどんこ病にかかるのを防ぐ効果が期待できます。
赤クローバーは、明治維新頃(1868年前後)に日本に渡来したと言われています。高さ30~60センチくらいに生長し、まばらに分岐するのが特徴です。
シロツメクサとは、花柄がほとんどないこと、苞葉がないこと、茎がまっすぐなこと、小葉が卵形であることなどにより区別することが出来ます。
オオバコ(オオバコ科)
オオバコは、うどんこ病菌の寄生菌を増やす効果があると言われており、踏みつけられても丈夫で、再生しやすいのが特徴です。
オオバコは、自身がうどんこ病にかかりやすく、菌寄生菌がふえますので、ブドウ棚の下に生やすとブドウのうどんこ病を抑えることができます。
ムラサキカタバミ・カタバミ(カタバミ科)
(別称:スイモノグサ)
クローバーのような葉っぱが特徴のカタバミは、庭園や道ばたに生えている多年草で、茎や葉っぱにシュウ酸を含んでいるので、酸味があります。
花が咲いた後は実がなり、熟すとたくさんのタネをはじき出して遠くへ飛ばして増えてゆきます。
カタバミは、ハダニの天敵を増やします。
沖縄ではゴーヤーの草生栽培に近縁のムラサキカタバミや、ヤンバルハコベが使われています。
カラスノエンドウ(マメ科)
(別称:ヤハズエンドウ)
カラスのエンドウも、アブラムシ、ハダニの天敵を増やすことが出来る頼もしいバンカープランツです。
マメ科ですので、土を肥沃にする補助の働きもあります。
キンレイカ(ナスタチウム_ウゼンハレン科)
エディブルフラワー(食用花)のキンレイカは、アブラムシ、ハダニ、スリップスの天敵を増やす効果があると言われています。
ヨモギ(キク科)
(別名:モチグサ)
ヨモギは、ほかの雑草を抑える働きと、アブラムシ、ハダニ、スリップスの天敵を増やす効果があります。
トマトのそばにヨモギがあると、とくに効果的と言われています。
なお、ヨモギは繁殖力が強いため、地植えにせず、植木鉢で栽培したものを畑のウネに半分埋めておく方法でも効果があります。
ギシギシ(タデ科)
おもに、中部以北の高山に生える多年草です。
ギシギシは、シュウ酸濃度が高い植物で、害虫のテントウムシダマシを寄せ付けない効果があります。
キスゲ(ユリ科)
(別称:ゆうすげ)
キスゲは、カイガラムシの天敵を増やす働きがあります。
クリムソンクローバー(マメ科)
(別称:ベニバナツメクサ・ストロベリーキャンドル・ストロベリートーチ・オランダレンゲ)
マメ科のクリムソンクローバーは、土壌を肥沃にする効果があります。
また、スリップスやアブラムシの天敵を増やし、ダイズシストセンチュウという害虫の対策に最適とも言われています。
シロツメクサ(マメ科)
(別称:ツメクサ・オランダレンゲ・クローバー)
マメ科のシロツメクサは、土壌を肥沃にする手助けをします。
シロツメクサは、自身がうどんこ病にかかりやすく、菌寄生菌のすみかになるので、ウリ科の野菜(キュウリやスイカなど)が、うどんこ病になるのをカバーしてくれます。
また、害虫であるヨトウムシの天敵を増やす効果もあると言われています。
なお、シロツメクサは多年草で生育が旺盛ですので、市民農園などを利用されている場合は、一年草のクリムソンクローバーがおすすめです。
ムギ類(ムギ科)
オオムギ、エンバクのように、〇〇ムギ、〇〇バクと呼ばれている植物がバンカープランツになります。
多くの天敵を増やす効果と、ムギ自身が病気にかかってうどんこ病菌の寄生菌を増やし、野菜のうどんこ病をガードしてくれる働きがあります。
コスモス(キク科)
(別称:アキザクラ・オオハルシャギク)
お馴染みのコスモスも、バンカープランツとして活躍します。
訪花昆虫でもあるコスモスは、多くの天敵を増やしますので 害虫忌避の効果があります。
マリーゴールド(キク科)
(別称:コウオウソウ・クジャクソウ・マンジュギク)
メキシコ原産の一年草です。
ガーデニングなどによく使われているマリーゴールドはお馴染みですね。
マリーゴールドは多くの天敵を増やし害虫駆除に適しています。また訪花昆虫を呼びますので受粉されやすく(実が付きやすく)なります。
また、マリーゴールドには根から侵入した「センチュウ」に殺虫物質を分泌して殺す力がありますので、ウネの周りや通路に植えておくのがおすすめです。
木嶋先生は、フレンチタイプの品種より、草丈のある「アフリカンタイプ」がより効果的です。と、述べられています。(写真下)
ヒマワリ(キク科)
(別称:ひぐるま)
もとは北アメリカからやってきた一年草です。茎が直立して高いものは2メートルにもなりますので、ソルゴーと同じような効果が期待されます。
丈が高いので、菜園をヒマワリでグルリと植えると、強風を防ぐ効果もありますし、訪花昆虫を呼び寄せます。
またヒマワリは、害虫対策にも有効です。
スリップス、コガネムシなどの害虫がヒマワリに寄ってきますが、その分、多くの天敵を増やすことになりますので、野菜が害虫に食べられることを防ぎます。
さらに緑肥としても有効で、ヒマワリの根っこは地面の中の不溶性リン酸分を溶かして、ほかの植物が吸いやすい状態に変える能力が高いので、少ない肥料で栽培できるメリットもあります。
ラベンダー(シソ科)
ガーデニングや、ポプリ、香水などに使われているラベンダーも、バンカープランツになります。
風上と風下に植えることで、菜園全体にラベンダーの香りを漂わせて 害虫を寄せ付けないようにします。
またこんもりと茂らせて、天敵のすみかにすることも出来ます。
ラベンダーは訪花昆虫を呼びこみ、野菜の受粉をうながす効果も期待できます。
ローズマリー(シソ科)
料理でおなじみのローズマリーも、多くの天敵を増やす効果と、訪花昆虫を呼んで、野菜の花の受粉をうながします。
何年も栽培していますと背が高くなり、ブッシュ状の株になります。
ローズマリーは、多感作用(アレロパシー)が強いので、株元の広い範囲に植物が寄り付かず、裸の土の状態になることが多いです。
木嶋利男先生のある著書に、ローズマリーが作る空間を利用して、ミョウガを栽培すると、互いの生長が促進すると書かれています。
科学的に解明されていない不思議な現象とのことですが、植物は今だ未知なるものを秘めているのですね。
クロタラリア(マメ科)
(別称:タヌキマメ・コブトリソウ)
多くの天敵を増やす働きがあるクロタラリアは、根っこの病気「根こぶ病」を防ぐ効果があることから、コブトリソウという別名があります。
牧野富太郎さんの植物図鑑で調べますと、名前の由来がこう書かれていました。
(名前の由来は)花を正面から見ると、タヌキの顔のように見えるためかも知れない。
トウモロコシ(イネ科)
(別称:トウキビ・ナンバン)
熱帯アメリカの原産であったトウモロコシは、大正時代のはじめに渡来しました。
トウモロコシも多くの天敵を増やしますので、バンカープランツとして活躍させることが出来ます。
また、土を肥沃にする「エダマメ」とトウモロコシを同じウネで栽培しますと、トウモロコシの追肥が不要になり育ちが良くなります。
デントコーン(イネ科)
デントコーンはおもに、家畜用の飼料やデンプン(コーンスターチ)の原料になります。
トウモロコシと同様に多くの天敵のすみかになりますので、バンカープランツとして有効です。
また土を肥沃にする効果もあります。
ソルゴー(イネ科)
(別称:モロコシ・タカキビ・ソルガム・ソルゴーなど)
ソルゴーは、大変優秀なバンカープランツです。
すがたが食用のモロコシに似ていますね。
丈が高いので、カメムシ、コガネムシ、ヨトウムシなどの害虫の目隠しになりますし、風上と風下に植えますと、強風を防ぐ効果もあります。
ソルゴーに害虫も寄ってきますが、その分多くの天敵を増やすことになりますので、野菜が天敵に食べられることを防ぎます。
緑肥としても有効で、ソルゴーが枯れたら短く刈り込んで鋤き込みますと、土の中の有機物を増やすことが出来ます。
エンバク(イネ科)
(別称:からすむぎ・ちゃひきぐさ)
平野や廃地などに生える二年草です。
エンバクを育てますと害虫もやってきますが、多くの天敵のすみかとなります。そのため、野菜の害虫被害を少なくする効果があります。
また、アブラナ科の野菜の病気予防に効果的で、エンバクの根っこから分泌されるアベナシンという成分で、根こぶ病がかかりにくくなります。
エンバクは、秋になると枯れて地面の上を覆いますが、そのままにしておきますと根っこの量が多いので、土に大量の有機物を補給することができ、土づくりにも役立ちます。
一般的にエンバクはウネとウネの間の通路で育てるため踏み付けてしまいますが、再生能力にすぐれているので、多少葉っぱが傷んでも回復して生育します。
バンカープランツの栽培例
この章では「野菜とバンカープランツの組み合わせ例」を紹介いたしますので、参考になさってください。
エンバクの栽培例
エンバクをバンカープランツに使う例をご紹介いたします。
参考資料「コンパニオンプランツの野菜作り 93頁」
アブラナ科の病気を予防します
エンバクは、アベナシンという抗菌物質を分泌しますので、ハクサイやキャベツなどアブラナ科の野菜の根こぶ病を防ぐ効果が期待されます。
天敵のすみかに
エンバクに害虫も寄ってきますが、害虫をエサにする天敵もやってきますので、野菜を守ってくれる効果があります。
地面の乾燥を防ぎます
エンバクの葉っぱは、広がって地面に陰ができるので、土が乾燥しにくくなります。
緑肥にもなります
秋になるとエンバクは枯れて地表をおおいます。根っこがたくさん付き、土にたくさんの有機物を補給することができますので、土の肥沃にも貢献します。
踏み付けても丈夫!
エンバクは畑の通路で育てますので、どうしても踏み付けることになりますが、葉っぱの回復力が高いので、ぐんぐん生長します。
ピーマン×ソルゴー
ピーマンの隣にソルゴーを障壁作物として植えますと、ソルゴーが外からやってくる害虫の侵入を防いでくれます。
またソルゴーが天敵のすみかとなるため、ピーマンの害虫であるハダニなどから守ってくれる役割を果たしてくれます。
ピーマンと同じ科のナスも、効果的です。
カボチャ×デントコーン
広い菜園の場合、草丈の高いデントコーンが風よけに有効です。
スイートコーンなどより育つ期間が長いので、長い間 障壁の役目を果たしてくれます。
まとめ
※ ソルゴーで周囲を囲んで野菜を育てている農家さん
農学博士の木嶋利男先生が紹介されている、おとり作物、「バンカープランツ」の種類と、栽培の例をご案内いたしました。
野菜のちかくにバンカープランツを育てますと、野菜がかかりやすい病気や害虫被害の「身代わり」になってくれます。
益虫が寄ってくる畑づくりに役立つかと思いますので、参考になさってください。
[関連記事]
強い味方!畑に集まる天敵の種類|益虫が集まりやすい畑の環境づくり
病害虫を防ぎマルチになる「エンバク」のコンパニオンプランツ栽培
テントウムシを増やしたい!畑の野菜でテントウムシを増やす方法
[参考文献]
木嶋利男「コンパニオンプランツの野菜づくり」
牧野富太郎「牧野新日本植物図鑑」
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